【群馬クレインサンダーズ】地域と共に築く、持続可能なプロバスケットボールチームの未来

 2010年に設立された群馬クレインサンダーズは、2021年にホームタウンを前橋市から太田市に移した。2023年4月からは約5500人を収容できる新アリーナ「OPEN HOUSE ARENA OTA」でホーム試合を行い、地域に根ざしたスポーツコンテンツとしてファンを増やすとともに、地域企業とコラボしながら群馬県を盛り上げている。今回は2020年に代表取締役社長に就任した阿久澤毅代表に、新アリーナ構想や実現に際してのエピソードを伺った。

コロナ禍を越えた新たなステージ 「群馬クレインサンダーズ」太田移転と阿久澤代表の挑戦

株式会社 群馬プロバスケットボールコミッション 代表取締役社長:阿久澤毅さん

 群馬クレインサンダーズは、日本の男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」に所属するバスケットボールチームだ。「バスケで群馬を熱くする」という理念のもと、日本一を目指して活動をしている。

「群馬クレインサンダーズ」というチーム名は、群馬を代表する郷土かるた「上毛かるた」が由来だそうだ。群馬県のシルエットを指す札である「鶴舞う形」の鶴(クレイン)と、群馬に雷が多いことを表した札である「雷(らい)と空風」の雷(サンダー)を掛け合わせている。日本の象徴でもある優雅な鶴と、エネルギッシュでスピード感のある雷をイメージしているという。

群馬クレインサンダーズの運営会社「群馬プロバスケットボールコミッション」代表の阿久澤さんは、2020年4月の就任以来、ファンの獲得に尽力している。阿久澤さんは高校時代、甲子園で王貞治さん以来となる2試合連続のホームランを打った経験を持つスラッガー。高校教員時代は野球部の指導者としても活躍し、地元のスポーツコミュニティを長年盛り上げてきた人物だ。

そんな阿久澤さんが代表に就任したきっかけは、2019年にオープンハウスがクレインサンダーズのオーナー会社となったタイミング。地元の人からの推薦もあり、「社長をやってくれないか?」と声がかかったのだ。阿久澤さんは悩んだが、定年まであと1年を残して早期退職し、代表取締役に就任することを決めた。「おもしろそう!やってみたい!」というのが一番の決め手だった。

試合の様子(写真提供:群馬クレインサンダーズ)

2020年4月から社長に就任したものの、当時は新型コロナウイルス流行の真っただ中。Bリーグでもリーグ戦が中止になり、試合ができない期間が続いた。予定していたイベントも中止になる中、売れ残ってしまったグッズの販売が、阿久澤さんの最初の任務だった。

社長へ就任したのと同時期に、群馬クレインサンダーズの未来を見据え「太田へのホームタウン移転」の話が浮上した。プロバスケットボールにはB1・B2があり、B2からB1に昇格するには財務やチームの戦績の他、「ホームアリーナ(本拠地)の収容人数が5000人以上」という基準を満たす必要がある。

当時のホームアリーナである前橋市のヤマト市民体育館の収容人数は2200人ほど。「チームとしてB1に昇格できる実力がある」ということで、2020年秋には太田市清水市長やオープンハウスの荒井正昭社長ら合意のもと、ホームタウンの太田移転が決まった。新型コロナウイルスの影響で、プロスポーツのあり方が再考される中、まさにタイミングが重なったものだった。

2023年に完成した「OPEN HOUSE ARENA OTA」(提供写真)

太田市に移転を決めた理由について、阿久澤さんは「太田であればB1基準を満たすアリーナが造れること」「駐車場や公共交通機関を含めて交通の便が良いこと」の2点を挙げた。加えて「行政の人たちが『スポーツで街づくりをしていきたい』と何度も膝を付き合わせて話してくれた。その姿勢と熱量に惹かれた」と当時を振り返る。

社会への感謝と社会的貢献

 太田へのホーム移転後、まずは太田市の住民に群馬クレインサンダーズを知ってもらうことが必要だった。子供たちにアプローチするため、小中学校の給食の牛乳パックに、群馬クレインサンダーズのマスコットである「サンダくん」をプリントした。これによってサンダくんの認知度が向上し、親しみを持ってくれる子供が増えたという。

マスコットキャラクター サンダくん(提供写真)

群馬クレインサンダーズでは、バスケットボールスクール会員を対象にした農育企画「芋掘り&バイオ実験」や「クリスマスケーキ作り」なども行っている。これらの取り組みは地域社会と連携した学びの場として、希望者を募って開催しているそうだ。阿久澤さんは「子供たちにはバスケだけではなく、サンダーズを通して色々な経験・体験をさせてあげたい」と考えているという。

また試合がある週末に、太田市運動公園体育館前の屋外スペース(並木通り)で開催される「OTAマルシェ」も、群馬クレインサンダーズの地域連携の取り組みのひとつだ。多いときで60店舗ほど出店されている本イベントは「バスケットボール以外でもホームタウン太田市の魅力を感じてもらおう」という思いで実施されている。マルシェは試合を観にきた来場者だけでなく、運動公園に散歩に来た地元の家族連れの方などで賑わい、地域経済の活性化に貢献している。

様々な人たちで賑わうOTAマルシェ(提供写真)

2021年・2022年には、「太田市外国語教育特区構想」に基づき設立された一貫教育校「ぐんま国際アカデミー」の学生により、小児がんの子供たちを支援するための募金活動「レモネードスタンド活動」が行われた。サンダーズのホームゲームでポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社から無償提供されたレモネードを販売し、寄付を募る取り組みだ。

このように群馬クレインサンダーズは、ファンや地域への感謝の気持ちとして、様々な社会貢献活動を行っている。クレインサンダーズは、「群馬県内の企業同士が繋がる場所」「地域の憩いの場所」として、地域連携のハブを目指している。

B1リーグ制覇を目指し、新アリーナで躍動

 群馬クレインサンダーズは、B1リーグの制覇を目標に掲げている。20-21シーズンではB2リーグで最高勝率を記録し、B2優勝を果たした。この実績により、2021年にはB1リーグへの昇格を実現。21-22シーズンでは東地区で7位、22-23シーズンは東地区5位と順位を上げた。その後のオフで元日本代表辻直人選手や千葉と琉球で2度の優勝経験を持つフリッピン選手などを補強し、B1リーグ優勝も大いに期待されている。

2023-24シーズンは10月から開幕。悲願のB1リーグ優勝が期待される。(提供写真)

オフィシャルチアダンサー「サンダーガールズ」(提供写真)

次シーズンとなる23-24シーズンのホーム開幕戦は、2023年10月14日(土)・15日(日)に予定されている「対横浜ビー・コルセアーズ戦」。ホームアリーナが「OPEN HOUSE ARENA OTA」へ移転されてから初めて迎えるシーズン開幕は、多くの群馬県民がこの新アリーナで盛り上がることだろう。

阿久澤さんによると、「群馬クレインサンダーズは、ただリーグ戦優勝を目指すだけではなく、未来のスターを育てる使命も担っている」という。その一環として取り組んでいるのが、「群馬クレインサンダーズバスケットボールスクール」の運営だ。トップリーグ及び日本を代表する選手の輩出を目指すこのスクールでは、初めてスポーツに触れる子供から、ユースチーム入団を目指す子供までを対象に、幅広いプログラムを提供している。

群馬クレインサンダーズは「バスケで群馬を熱くする」というクラブ理念に基づき、将来のバスケットボール業界を見据えた活動も行っているのだ。

スモールアリーナ、ビッグビジョン

日本最大級のセンタービジョン(提供写真)

 2023年に完成した「OPEN HOUSE ARENA OTA」は、収容人数約5500人のアリーナだ。世界最高峰の音響と、選手の表情まで映し出すセンタービジョン(会場中央に設置された大きなモニター)で試合の臨場感と迫力はトップクラス。特に合計14面のビジョンが連なる可動式センタービジョンは日本最大級だ。

天井に設置した50機のスピーカーと24機のウーハー(低音を担当するスピーカー)は、世界最高峰と称されるフランスのL-ACOUSTICS社のもの。さらに、合計84台の照明を設置することで、どの席にいても劇場のような臨場感を実現できる。

阿久澤さんは新アリーナについて「満員になると人の声や空気感でさらに盛り上がり、選手のモチベーションも上がる。このくらいのサイズのアリーナがちょうど良い。他のアリーナでは味わえない興奮を届けられるだろう」とワクワクしながら語った。

新アリーナ「OPEN HOUSE ARENA OTA」で盛り上がる観客(提供写真)

2023年4月に行われた宇都宮ブレックス戦では「観客の反応も上々だった」とのことで、新アリーナでの観戦体験に大きな手応えを感じている。

今後の展望について尋ねると「Bリーグのトップクラブとして活躍し、成績含め様々な意味で日本一を目指す。できるだけ早くチャンピオンシップ(プレーオフ)に出場したい」と目を輝かせながら力強く明言した。2026年までを目標にプレーオフの地元開催を行うことで、「お客様に特別感のある雰囲気を感じてもらいたい」という。

また「地域との連携事業をさらに強化し、スポーツを通じた地域の発展やコミュニティづくりに貢献していきたい」「スクール運営など、次世代の選手の育成にも力を入れたい」と続けて語った。

阿久澤さんは、常に満員となるアリーナを思い描いている。地域共創の先進事例として注目を集めるクラブを目指し、地域と共に持続可能なプロバスケットボールチームの未来を築くのだろう。

<プロフィール>
株式会社 群馬プロバスケットボールコミッション
■プロバスケットボールチーム“群馬クレインサンダーズ”の運営
■バスケットボールスクールの運営

住所:〒373-0851 群馬県太田市飯田町894-2
HP:https://g-crane-thunders.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/gunma.ct
Twitter:https://twitter.com/gunmacrane3ders
Instagram:https://www.instagram.com/gunmacrane3ders

【編集部後記】
「地元群馬を盛り上げていきたい」と考えていたところ、知人の紹介で群馬クレインサンダーズに出会いました。何度かホーム戦へ足を運ぶうち、プロバスケットのパフォーマンスや試合の面白さに魅了されました。「この感動をもっと多くの人に届けたい。試合の臨場感や一体感を共有したい」という想いから2022年、サンダーズ誕生の地である前橋でパブリックビューイングの開催をさせていただくことに。同日ブースターとの交流会も企画し、参加者たちと話をする中で、改めてサンダーズの魅力を感じました。代表の阿久澤さんには、アリーナ移転のキッカケや、サンダーズへの想い、活動内容について伺いたいと思っていたので、今回深いところまでお話を聞くことができ、大変嬉しく思います。今後も一ファンとして、応援していきます。(ライター 田波彩)

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