「東京で見ることができない世界、やり方があるのが地方の魅力」冷凍パン×ITで地域の社会課題解決に取り組む、株式会社パンフォーユーの挑戦と想い【群馬IMPACT STARTUP】
全国のパン屋さんの冷凍パンを定期的に届けるサブスクリプションサービス「パンスク」を手がける株式会社パンフォーユー。2017年に冷凍パンの販売会社として群馬県桐生市で立ち上がった同社。冷凍技術とIT技術を生かした事業展開を進め、現在「パンスク」会員数は4万5千人超え、法人企業向けの福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」は400社導入、累計資金調達額は約10億円を超える注目のスタートアップだ。今回、創業者で代表取締役を務める矢野健太さんに今後の冷凍パン×IT事業の展開やなぜ地方なのか、群馬発スタートアップへの想いについてお話を伺った。
地方でも勝負できる産業を。パンの冷凍とITの技術で地域経済に貢献
株式会社パンフォーユーは、地域のパン屋さんのプラットフォーマーとして、個人向けのパン定期便「パンスク」、オフィス・福利厚生向けの「パンフォーユーオフィス」、パンを販売したい事業者とパン屋さんをつなぐ「パンフォーユーBiz」、オンラインで贈れる「全国パン共通券」などのサービスを展開。さらに2024年からは「パンスクギフト」というパンスクをギフトとして贈れるサービスも開始している。
「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」ことを企業のミッションに、地域のパン屋さんが抱える課題を「冷凍・IT技術」で解決し、パン業界のDXを推進することを目指す同社。この冷凍技術は特別な冷凍設備を導入しなくてもよく、発送や伝票管理は独自のシステムを利用しパン屋さんの負担を軽減しているという。
創業前、群馬県の地域系NPOで活動していた矢野さんは、「地方でも勝負できる産業を作りたい」という思いを強く持ち、社会問題解決型のスタートアップとして2017年に地元群馬県桐生市で起業。NPOでの活動を通じて冷凍パンメーカーさんと出会ったこともあり、当時は冷凍パンの販売会社としてスタートを切った。
地方には美味しいパン屋さんがたくさんあるが、販路は地元に限られる。さらに、食品廃棄の問題やライフスタイルの変化にあわせた働き方の実現など、冷凍とITの技術を利用すれば、地方のパン屋さんが抱える問題を解決でき、おいしいパンを全国に届けることができるのではと考えたのだ。
冷凍パンは、保存料や添加物が少なくて済むことが特徴。健康を気にされる方へのニーズはもちろん、小さなまちのパン屋さんのパンがこんなにも美味しいということを実感し、「これは喜んでくれる人が多いのでは」という思いだったと矢野さんは語る。
しかし、世の中に馴染みのないサービスを展開してくことは困難も大きかったという。始めた頃は賛同してくれるパン屋さんも少なく、「冷凍は美味しくないのでは」「地元以外の人が喜んでくれるとは思えない」という声が多かったという。そんなパン屋さんたちに、実際に冷凍したパンを食べてもらったり、お客様が継続的に購入する姿を発注を通して見てもらったりすることで、少しずつ支持を得てきた。現在「パンスク」会員数は3万人超え、法人企業向けの福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」は400社導入を突破しさらなる成長を見せ続ける。
今でこそ、「冷凍パン」や「パンスク」というジャンルは馴染みのある言葉となっているが、創業当時はパン屋さんのパンが特別に美味しいという価値観を持つ人がそれほど多くはなかった。だが、「パン屋さんのパン」の魅力を知る人が時代と共に増えてきて、その価値が世の中に広がったことが会社の飛躍的な成長にも繋がったと矢野さんは語る。
2024年「パンスクギフト」スタート!パン屋さんのパンの魅力を様々な方法で広めるパンフォーユー社の事業展開
2024年から新たにスタートしたパンスクギフト。これまで「パンスク」を運営をする中で、自分のアカウントで親御さんに差し上げようと購入しているお客様もいたことからギフト需要があることを感じ、2024年2月から開始したサービスだ。
パンスクギフトは、贈る側がお届け回数やパン屋さん、地域を選ぶことができるのが特徴。お気に入りのパン屋さんを教えたい、ゆかりのある地域のパンを贈りたいなど、贈る相手に合わせてチョイスできる。パンは幅広い年齢層に受け入れられやすいこともあり、お中元やお歳暮、母の日やホワイトデー、敬老の日など、利用シーンを選ばない。また、自分へのご褒美として利用することもでき、旅行先で美味しいパン屋さんに出会った時の感動を自宅でも楽しめるはずだ。
パンスクギフトを通じて、パンスクに興味があったけど手が出せていなかった、パンは好きだけどこんなギフトサービスがあるなんて知らなかったという潜在顧客にアプローチ。今後は季節のイベントに合わせて商品を展開し、さらなる需要拡大を目指すという。
また、「パンフォーユーBiz」における無人店舗の代理店などリアルでの展開も強化。年々パン屋さんの数は減少しており、近所にパン屋さんが全然ないという地域もある。そこで、空きスペースや土地を活用したい人に冷凍パンを置いてもらうことによって、地域の人も、スペースを活用したい人にも喜んでもらえるのではと矢野さんは語る。
さらに、コロナ禍が落ち着いてきたことで展開できる事業も増えてきた。飲食・宿泊業などの経済が戻ってきたこともあり、ホテル飲食店へのパンの卸にも注力。海外展開も始めており、香港とシンガポールでパンスクの試験販売もスタートした。ニーズや販売方法を確認しながら今後の事業展開を考えていくそうだ。
群馬発スタートアップでパンを食べる文化をもっと広めていきたい
群馬発スタートアップの同社は、地元ならではの取り組みも行っている。2020年、ザスパクサツ群馬の試合の際にスタジアムにてパンの販売対決を行った。相手チームの地域のパンと地元群馬県のパンを数種類販売し、販売数を競うというゲーム性のある取り組みだ。
また、パンスクで取り扱っているパン屋さんは、群馬県で20店舗以上。地元でスタートしたこともあり、割合から見ても多い取扱数となっているという。
将来的には嗜好品としてのパン市場をさらに拡大し、パンを食べる文化を広めていきたいと語る矢野さん。また、パン屋さんに対してもサスティナブルなビジネスが展開できるよう支援することで、地域経済に貢献したいと考えている。
また、パン屋さんの閉店数が過去最多という報道もあり、パン屋さんの負担軽減や販路開拓など、同じパン業界の仲間として課題解決に向けて行動していくことも目指している。4月には「パン救(すく)プロジェクト」を発足し、全国7店舗のパン屋と期間限定の「ひんやりパンスイーツ」を発表した。
東京で見ることができない世界、やり方があるのが地方発スタートアップの魅力
スタートアップとして起業する場合、人材や資金面では東京などの都市部がどうしても有利だ。地域に還元するんだという気持ちで始める人も増えきているが、全体でみるとまだまだ少数。だが矢野さんは、「東京では見ることができない世界、やり方があるのが地方の魅力。ビジネスの探検ができ、それを結果として地域にお返しすることが地方発スタートアップの意義」と力を込めて話す。
まだまだ地方発のスタートアップは少数なため、大変なこともあるだろう。「その分地域の人々から支援してもらえることも多いのが地方スタートアップの魅力。地域にいることを武器にして、地方創生の一翼を担うスタートアップに挑戦する人が今後さらに増えてほしい」と矢野さんは締めくくった。
冷凍パンを通して地域の問題を解決する株式会社パンフォーユー。パン屋さんも、パンを食べる人も幸せになれる「パンスク」のサービスは、地方の活性化、ひいては日本全体の活性化につながっている。今後は更なる成長・発展をしていくことだろう。また、同社が地方スタートアップのモデルとなり、同じような志を持った地方発スタートアップがより増えることを期待したい。
●株式会社パンフォーユー
”冷凍×IT”で実現するパンを『作る・売る・買う』をつなげる三方良しのプラットフォームを提供するベンチャー企業。地域パン屋のプラットフォームとして、地域経済に貢献し、新しいパン経済圏をつくることを事業ミッションとする。
個人向けサブスクリプションサービス「パンスク」、オフィス向け福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」、冷凍パンを活用したパン屋開業支援サービス「ゴーストベーカリー」、小ロットから冷凍パンを発注できるOEMプラットフォーム「パンフォーユーBiz」などの事業を展開。
(代表プロフィール)
株式会社パンフォーユー
代表取締役 矢野 健太
・群馬県桐生市出身
・大学卒業後、広告代理店を経て地域系NPOへ
・地方でも勝負できる産業の必要性を実感する
・冷凍パンメーカーと出会い、地方のパン屋さんのパンを全国に届けたいと考える
・2017年に地元桐生市でパン販売会社をスタート
【編集部後記】
私自身パン屋さんどころかスーパーが1件もない地域に引っ越すことになったので、自分事としてお話を伺っていました。社会問題を解決するスタートアップとして起業した矢野さんは、「パンが好き」というだけでなく、地域の活性化には何が必要か、そして本当に喜んでもらえるサービスは何かを研究し、事業展開されています。そんな思いや経緯をお聞きして、私も地域のために何かしたいという気持ちが湧いてきました。今後も矢野さんの活動を原動力に、私も一歩踏み出したいと思います。(ライター:坂本史織)