目指すは「高齢者の移動が安全で自由になる社会」 デイサービスの介護人材不足を抜本的に解決するソーシャルムーバー株式会社の「Care Drive」事業と想い【群馬IMPACT STARTUP】

 群馬県前橋市にあるベンチャー企業・ソーシャルムーバー株式会社は、デイサービス施設の送迎業務負担を軽減するサービス「Care Drive」を提供している。介護業界に一石を投じるべく始めたこのサービスは「悩み続けてきた介護人材不足の問題を抜本的に解決するサービス」として、今注目を集めている。

同社代表の北嶋史誉社長は、「Care Drive」事業を通じてどんな未来を見据えているのか。今回編集部では、ソーシャルムーバー株式会社が取り組むサービスの内容、メリットを伺うとともに、介護業界の人材不足問題や群馬発スタートアップへの思いについて話を聞いた。

ソーシャルムーバー株式会社 代表取締役社長 北嶋史誉氏

介護のコア業務だけに集中できる職場環境を実現!デイサービス施設の送迎委託サービス「Care Drive」

編集部:本日はよろしくお願いいたします。御社が展開する「Care Drive」について具体的なサービス内容をまずは教えてください。

北嶋社長:Care Driveは端的に話すと『デイサービス施設の送迎業務をプロドライバーに委託できるサービス』です。デイサービス業務の約3割を占めると言われている朝・夕の送迎業務をCare Driveのプロドライバーに委託することで、入浴・食事・レクリエーション活動や専門的ケアなど介護のコア業務だけに集中できる職場環境を実現できます。

編集部:3割もですか…。そう聞くと、送迎業務の負担の大きさを感じます。

北嶋社長:そうですね。加えてデイサービスは要介護者の利用もあるので、送迎には繊細な運転技術が要求されます。重圧や責任感に耐えられず運転を嫌がるスタッフは珍しくなく、求職者からも敬遠される原因になっているようです。慢性的な介護人材不足に陥っている原因の一端は送迎業務にあるといえます。

編集部:だからこそ、送迎業務をより専門性の高いプロドライバーに委託すれば良いのでは、という結論に至ったんですね。

送迎業務を外注することで、スタッフは本来業務に集中することができる

北嶋社長:そうです。まずは、面倒な送迎業務は全て委託できる、当社のサービスに頼っても良いんだというのを、介護業界で働く皆さんに知ってほしいですね。このほかにもメリットはたくさんあり、介護職員の慣れない運転による事故リスクを軽減したり、保険料やガソリン代、点検料などの車両管理費用をゼロにできたり、送迎範囲の拡張によってさらなる利用者増加を見込めるなど、経営視点においても多くの相乗効果を期待できます。委託後は送迎ドライバーの管理業務まで全てCareDriveで行っているのでぜひ任せてほしいです。

職員の運転によって、起きてしまいがちなさまざまなリスク

CareDriveに登録する「ケアドライバー」だからこそ実現できる高齢者の移動がより安全で自由になる社会

編集者:デイサービス施設にメリットが多いサービスですね!CareDriveに登録するドライバーはどんな方々がいるのでしょうか?

北嶋社長:CareDriveには介護タクシー事業を展開する法人や業務委託・兼業で取り組むプロ人材まで登録しています。

編集者:ドライバーは登録するとどのようなメリットがあるのでしょうか?

北嶋社長:ドライバーの皆さんにはデイサービス施設の送迎案件を随時紹介しているので、安定した収益につながります。介護タクシーは専門的な技術を要する仕事でありながら、従来は介護職員が兼務したり、低賃金でパート・アルバイトに任せるなど、社会的な評価を受けてこなかったと感じています。そのような課題を解決できるよう、Care Driveでは報酬単価が比較的高い仕事をプロドライバーの皆さんに紹介しています。

北嶋社長:介護タクシーは今後の高齢化社会において、大きなやりがいや働く意義がある仕事です。もっと評価され働くイメージを一緒に変えたい思いから、CareDriveに登録する皆さんを「ケアドライバー」と私たちは呼び、介護業界の変革を目指す仲間としてビジョンを共有するようにもしています。

編集部:「ケアドライバー」素敵な名前ですね。 サービス開始から1年以上が経過するなか、手応えはいかがでしょうか?

登録ケアドライバーへは報酬単価の高い送迎案件を紹介

北嶋社長:現在、高崎・前橋・安中市など群馬県を中心に、デイサービス施設15件、法人・個人のタクシー事業者10社と契約し、合計16台が稼働しています。施設・ドライバーどちらの利用者からも好評の声をいただき、手応えを感じています。さらに、Care Driveの活用によってこれまでは運営が難しかった地域でも、介護タクシー事業に参入を考える経営者や個人事業主が増えてきています。

編集部:「ケアドライバー」が今後は新しいビジネスとして、より注目を浴びるかもしれませんね。

北嶋社長:そうなったら、嬉しいですね。何より、「ケアドライバーになりたい」と言ってくれる人が、1人でも多く増えてくれれば嬉しいです。運転手の皆で連携し合って介護タクシーのマーケットを活性化させ、「高齢者の移動がより安全で自由になる社会」の実現を目指していきたいです。

業界未経験からケアドライバーを目指すことも可能!Care Drive事業で取り組む研修・就職・独立開業支援とは!?

編集部:未経験の個人でも挑戦することができると聞いています。どのようにしてケアドライバーになれるのでしょうか?

北嶋社長:まず、第2種運転免許の取得を必須条件とした上で、業界未経験でも安心して取り組める研修制度を取り入れています。研修では、約1日をかけて、カーブ時の優しいブレーキのかけ方やリフトの使い方、ベッドから車いすへの移動方法など、専門的な知識・技能を細かくレクチャーする座学と実技講習を実施。その後、要介護者の立場に立っての体験学習も行い、ケアドライバーとしての心得を学んでもらっています。

万全なサポート体制で未経験者も安心してスタートできる

編集部:ケアドライバーになると、働き方も選択できると伺いました。どのような仕事を紹介してもらえるのでしょうか?

北嶋社長:仕事は週1~6日まで様々な案件があるので、ご希望の働き方に合わせた仕事を紹介可能です。送迎業務の増えがちな朝8時~10時、夕方15時~17時を除いた空き時間はWワークに勤しんだり、プライベートを充実させるのも自由です。最近ではこの空き時間を利用し、既に関係性を築いている患者さんから、スーパーや商店街などへの移動用タクシーとして追加依頼をもらえるケースも増えているようです。

朝・夕を除いた時間は、別の仕事に充てることもできる

北嶋社長:最初から個人事業主・独立開業を行うことが不安の方はまずは就職を選択することもできます。正社員としてケアドライバーを続けることはもちろん、希望者には独立前提とした就職先を紹介することも可能です。

編集部:日常的に介護施設へ通う利用者にとって、日々送迎してくれるなじみの運転手へいつでも依頼できるのは、大きな安心感にもつながりそうですね!

北嶋社長:そうですね。ケアドライバーは病院への送迎、買い物のサポート、趣味や外出の付き添いなど、高齢者の移動不安を解消し、日常の自由を広げる大切な役割を担っています。ケアドライバーを各地域に増やすことで、高齢者になっても移動が不安にならず、免許返納しても安心できる社会にしていきたいです。ビジョンに共感してもらえる方なら、業界未経験でもどんどん挑戦してほしいですね。

ケアドライバーの増加により高齢者の移動不安解消を目指す

プレシリーズAラウンド 5,000万円の資金調達!シニアベンチャーとしての矜持を持って、CareDriveの普及・介護業界の発展に寄与していく

編集部:これまでの取り組みが実を結び、スタートアップ企業の資金調達ステージ「プレシリーズAラウンド」で、1982インパクトファンドから5,000万円の資金調達の発表がありましたね。注目度の高さを感じていますがいかがでしょうか?

2025年1月21日、群馬県庁32皆NESTUGENにて資金調達の記者会見を行う北嶋社長

北嶋社長:ありがとうございます。CareDrive事業の必要性やビジネスとしての可能性、社会問題の解決につながる点など、さまざまな要素が客観的に認められたようで、素直に嬉しいです。

編集部:1982インパクトファンドの投資はファンド設立後、初めての出資と聞いています。どのようなところが評価されたのでしょうか?

北嶋社長:そうですね。1982インパクトファンドからは、介護人材不足と移動弱者問題の解決に貢献でき、持続可能な取り組みにもなっていることが、最終的な支援を決める大きな要素になったと聞いています。初の支援先に選んでいただいた企業として責任をもってCareDrive事業のさらなる拡大を模索していきたいです。

編集部:調達された資金はどのように活用されるのでしょうか?

北嶋社長:ドライバー育成プログラムの整備、効率的なカスタマー体制の構築、システムの機能拡充、広報・営業スタッフの人員増強など、サービスの強化に努めていく予定です。2025年以内に群馬県内全域へサービスを浸透させ、翌年以降には栃木県、埼玉県、長野県、南東北地方など、近郊への市場開拓も進めていきたいとも考えています。

編集部:最後に、今後の目標を教えてください。

北嶋社長:介護タクシー業界のUber Eatsを目指したいですね。最終的には「孫の顔が見たいから」くらいの気軽な理由で地元の高齢者から利用してもらえるようにしたいです。群馬県で生まれ育ち、車社会の利便性も不便さも実感してきた身であるからこそ、ビジネスチャンスは大いに感じています。介護業界への熱意と行動力は若い経営者にも負けるつもりはありません。培ってきた経験を生かして介護業界にイノベーションを起こしたいと思います。

編集部:応援しております!本日はありがとうございました。

<プロフィール>
●ソーシャルムーバー株式会社
移動弱者問題と介護業界の人材不足を同時に解決するサービス「CareDrive」を提供するベンチャー企業。介護事業所の作業効率アップに貢献するのはもちろん、地方で収益が不安定になりがちなケアドライバーに安定した仕事を供給するのにもつなげている。全国で約25万台以上の車両が余っているという介護タクシーの利活用を画策し、2022年の実証実験を経て、2023年11月から同事業を展開。2025年までに、群馬県全域への普及と、県外への進出を模索している。

(代表プロフィール)
ソーシャルムーバー株式会社
代表取締役社長 北嶋 史誉
・群馬県出身
・1992年に医療法人社団日高会日高病院へ医療ソーシャルワーカーとして入職
・1998年に有限会社メディカルウェルフェアサポート日高(現エムダブルエス日高)へ在宅事業部長として移籍。2011年に代表取締役へ就任
・2016年に一般社団法人ソーシャルアクション機構の代表理事、2019年に一般社団法人全国介護事業者連盟群馬県支部 顧問、2020年に医療法人十薬会 上大類病院 理事に就任するなどさまざまな役職をこなしながら、2022年に株式会社エムダブルエス日高の代表取締役を退任
・移動弱者の課題解決を目指し、2023年にソーシャルムーバー株式会社を設立。ケアドライブ事業の普及に努める

ソーシャルムーバー株式会社
住所:群馬県前橋市大友町3-24-1
電話:027-212-4721
HP: https://social-mover.co/

【CareDrive事業】
デイサービス事業者はこちら:https://caredrive.jp/
ケアドライバー希望の方はこちら:https://caredriver.jp/

【編集後記】
人材不足は介護・福祉現場に限らず、日本中の業界で起きている社会問題です。団塊の世代が75歳以上を迎え、医療や介護費の増大、さらなる働き手不足が懸念される2025年問題も取りざたされるなか、前向きにそれらの解決を目指す北嶋社長の話を聞いて、僕まで勇気をもらえた気がしました。僕や周囲の家族も含めて、幸いまだ介護施設にお世話になった経験はありませんが、今回の取材を通して、より一層業界へのリスペクトは強くなったと思います。同じ群馬県出身の同胞として、これからも北嶋社長の活躍を楽しみに追いかけつつ、介護業界のさらなる発展を願っています。(ライター:坂入太陽)

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