【イノベーター】農業体験はアクティビティのひとつ。活力ある農業を目指し、週末農業スクールの運営と農業DAOに取り組む ハタケアカデミー代表 深見航平さん

 群馬県内で約40品目の野菜の生産・販売を行いながら、新規就農を考えている社会人のための週末農業スクール「ハタケアカデミー」を運営している深見航平さん。2023年からはプロサッカークラブ「ザスパクサツ群馬」とタッグを組み、地域のサポーターが農業体験を楽しめる「ザスパファームプロジェクト」を始めるなど、地域と連携しながら農業の楽しみを広めようと試行錯誤しています。「農業の魅力を伝え、将来の担い手不足を解決したい」という想いで活動をする深見さんに、農業をはじめたきっかけや仕事内容、将来のビジョンについてお話を伺いました。

ハタケアカデミー代表 深見航平さん

若気の至りであってもいい。興味のあった農業へ異業種から転身

ーIT企業から農業に転向した経緯を教えてください。

大学時代から、「いずれは独立したい」と思っていました。また昔から「食」に関心が深く、いつかは地元群馬を農業で活性化させたいという想いがありました。農業は人々の生活の根底である「食」を支えている産業です。しかし近年、燃料費、資材費の値上がりに伴って農業をする生産コストはどんどん上がっているのに、野菜の価格は何十年も上がらない。高齢化が進み担い手不足が進む中、業界全体も疲弊しており、「自分の子供には農業をやらせたくない」という農家さんもいます。

「そうした状況に対して自分が働きかけることで、少しでも未来の農業を明るくすることができたら」と考えていました。
そのためにはまず社会経験が必要だと感じ、大学卒業後はITベンチャー企業に入社しました。1年半ほど営業を経験しましたが、立ち上げ期の会社だったこともあり、新卒ながら様々な経験をさせてもらえました。
その後、志を同じくする大学時代の友人とともに、2012年に農業の世界へ足を踏み込むことにしました。

ー異業種への転身で不安はありませんでしたか。

若さゆえか、不安は特にありませんでした。もちろんビジネスが成功する保証もありませんし、すぐに収入が得られるとは限りません。ただ、当時は若く結婚もしておらず身軽でした。養わなければいけない家族もいないので、制約を受けず思うように行動できました。
また、一緒に農業を始めようとしてくれた友人の存在が大きかったのも確かです。

ーその後2018年に千葉での農業法人立ち上げを経て、2020年に群馬で独立されたのですね。農業を始めるにあたって大変なことはありましたか?

会社退職後に滋賀県の農業生産法人で働かせてもらい、自身でも畑を借りて野菜を生産・販売しました。その後、友人の実家がある千葉県で農業法人「オンザファーム」を立ち上げたのですが、農業の最初の一歩である「農地の借り方」でつまづきました。

当時はどこに相談したら良いのかすら分からず、まさに手探り状態。「農業の新規参入は難しい」と改めて痛感させられました。農地を手に入れた後は、滋賀県で学んだ経験を活かして、年間40品目ほどの野菜の栽培を開始。軌道に乗ってからは、都内の八百屋や食料品店、飲食店などにも販売できるようになりました。

ー深見さんが考える農業の魅力を教えてください。

社会人になると、自然と触れ合う機会が減ると思います。ですが、自然の中で走ったり、しゃがんだり、動いたり、そんな体験が、人の感情を豊かにし人生も豊かにしてくれると思うんです。例えばキャンプで一晩過ごしたり、川で遊んだり、自然の中でする何気ない体験が、私達に生きていることを教えてくれます。以前私も富士山を登ったことがありますが、ご来光を見た時に感動して「生きててよかった」と心から思いました。

農業の魅力を楽しそうに話す深見さん

自然と隔絶されつつある今、野菜がどのように育つか知らなかったり、魚は切り身のまま泳いでいると思っていたりする子供が増えていると聞きます。しかし、五感で自然を感じることでリラックスして会話もはずみますし、季節を感じることもできます。農業体験もひとつの自然体験です。野菜を植えたり、収穫したり、気軽にできるアクティビティとして体を動かすことができます。もちろん、自分が育てた野菜を収穫できる喜びはひとしおです。

LOCAL×農業 就農支援事業に取り組みたいと地元群馬へ

ー社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」を設立した背景は何ですか。

学生時代の「農業を通じて、地域の活性化に役立ちたい」という夢を実現したいと思い、2020年8月に地元・群馬に戻ってきました。そこで就農を考える人に向けた既存サービスがないことを知り、社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」を開校しました。

基礎から学べる社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」

私も就農するにあたり、農地の借り方や販路など技術以前の問題で躓きました。インターネットで覗いてみると、みんな同じ事で悩んでいることも分かりました。それならば、ノウハウを丸ごと伝授でき、就農者に伴走できる学校を自分で作ってしまおうという気持ちで設立しました。

農家は、代々その土地を受け継ぎ農業をすることが多いものです。そのため新規就農者は「どうやって農地を確保すれば良いかわからない」といった状態から、栽培する品目を決めたり、販路先を探したりなどの準備をする必要があります。その結果、意欲があるにも関わらず途中で諦めてしまったり、意にそぐわない形で農業に携わったりする人もいます。自分と同じように、全くの未経験から就農を考えている方々を手助けできたらと思っています。

ー社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」ではどんなことが学べますか。

ハタケアカデミーでは、農業の座学講義と実習を行っています。実習では講義用の畑として、私が営む2ヘクタールほどの農場「ランドマークファーム」の一角(3m×10m)を受講生にお任せして、種をまいたり、草を取ったりなどの作業を行ってもらいます。最終的には収穫までしてもらい、実践を通じて農業の全体像を学べるようになっています。

机に向かって勉強するのも良いですが、私は現場での実習に力を入れています。「どうやって虫がつくのか」「虫が寄生したら野菜はどのくらいの期間で弱ってしまうのか」「どうしたら生育状況が良くなるか」など、農業には実践の中でしか学べないことがたくさんあります。独立後のトラブルを回避するためにも、このアカデミーでできるだけ多くの体験を積んで欲しいと思っています。

ー「ハタケアカデミー」の今後の展望を教えてください。

受講生は「新規就農をしたい」という人から「趣味で家庭菜園を楽しみたい」という人まで様々ですが、卒業してからも「困ったときには相談しよう」と思ってもらえるような存在でありたいです。また、知識の共有や繁忙期の助け合いなど、農業には支え合う「仲間」がいると心強いもの。なので受講生同士もつながりを作ってもらい、卒業後も互いに農作物の生育状況を報告し合うような切磋琢磨できるコミュニティが作れれば嬉しいです。

地元のプロサッカーチームと共に農業DAOの活性化を目指す

―プロサッカークラブ「ザスパクサツ群馬」との共同プロジェクト「ザスパファームプロジェクト」について教えてください。

ザスパファームプロジェクトは、「ザスパクサツ群馬」からDAO(分散型自立組織:特定の所有者や管理者が存在せずとも、事業やプロジェクトを推進できる組織)を活用した取り組みがしたいという話をいただいたのがきっかけで発足したプロジェクトです。

「ザスパファームプロジェクト」で地元群馬と農業を盛り上げる

「ザスパファーム」では選手とサポーター、そして農家が共同で運営して野菜作りをしており、会員になるとイベントに安く参加できたり、グッズが安く買えたりといった特典をより多く受けられます。

「ザスパが好き」という気持ちをきっかけにザスパファームに参加して「農業っておもしろいな」と実感してもらえたら嬉しいですし、反対にザスパファームの野菜を買って「ザスパファームの取り組みって楽しそう」と思ってもらった結果、ザスパを再認識してもらうこともあると思います。双方向で良い流れが作れるのが理想ですね。

今後「ザスパファームプロジェクト」で収穫した野菜を、スタジアムやマルシェなどで販売する機会があります。見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

収穫した野菜をPRする選手たち

―ザスパファームプロジェクトの今後のビジョンは何ですか。

裾野を広げたいです。一農家ができることには限りがありますが、有難いことに「ザスパファームプロジェクト」には選手やサポーター、他の農家の方もいらっしゃいます。さらにサポーター企業として、飲食店やグッズ会社、種苗会社といった様々な企業と連携することも検討しています。いろんな人に関わってもらいながら、農業の繁栄と地元群馬を盛り上げていけるようなプロジェクトを作っていきたいですね。

季節野菜の収穫体験も楽しめる

―最後に、今後の目標を教えてください。

週末農業スクール「ハタケアカデミー」や、就農支援と並行して、その前段階である農業に興味を持ってもらえるような事業にも注力していきたいです。そのために、もっと気軽に収穫体験、農業体験できるような企画も計画しています。

また地域に根差した活動をしている「ザスパクサツ群馬」をはじめ、地域と関係を持ちたいという企業さんと一緒に活動して地域活性化に貢献したいですね。ひとつのアクティビティとして農業を楽しむ。そんなふうに地域の方と一緒に農業を盛り上げていきたいです。

(プロフィール)
ハタケアカデミー
代表 深見航平
・群馬県渋川市生まれ
・明治大学卒業後、ITベンチャー企業に入社
・2012年 農業で起業
・2018年 友人とともに、農業法人オンザファームを設立
・2020年 社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」を設立

●社会人向け週末農業スクール「ハタケアカデミー」
https://hatake-academy.com/

●ザスパファーム
https://shop.thespafarm.jp/

【編集部後記】
地元を大切に思い農業に情熱を注ぎ、邁進しようとしている深見さんの姿が大変印象的でした。今回のお話のなかで、私自身も自然との関わりが少なくなっていると感じました。まずは家庭菜園からスタート。もっと土に触れて空を見上げる機会を増やしたいと思います。個人的に「農業はひとつのアクティビティ」という言葉が心に響きました。この先、深見さんをはじめとする皆様の取り組みが大きく実を結び、農業に明るい未来が訪れることを願います。(ライター:藤野 悦子)

ピックアップ記事

関連記事一覧