「地方に最先端テクノロジーの拠点を」コンサルティング企業アクセンチュアが群馬・前橋/宮城・仙台に新拠点を立ち上げた理由とは
2023年、外資系コンサルティング企業のアクセンチュアは仙台・前橋・名古屋・福岡に新たな拠点を開設した。事業が堅調に成長する同社はなぜ今、あえて地方に拠点を増やすのか。今回はアクセンチュア株式会社の拠点戦略統括を担う田中さんに、地方展開の背景と日本の地方に秘められたポテンシャルについて話を聞いた。
デジタルの力で組織と地域を変革
アクセンチュアという会社名を聞くと「海外資本のコンサルティングファーム」「最近日本に進出してきた」というイメージを持つ人も多いのではないだろうか。しかし実際は、日本で60年以上事業を展開してきた歴史を持つ会社だ。長い年月をかけて日本の企業や自治体の支援に携わってきた同社の従業員数は、現在2万人以上(2023年度4月現在)。ここ8年で従業員数を4倍近く増やすなど、日本で急速に組織を拡大している。
近年の従業員増加の理由について、田中さんは「2015年から地道に取り組んできた、組織風土の成果だ」と語る。2010年代は、現在ほど日本社会全体で働き方改革が叫ばれていなかった時代。しかしアクセンチュアでは「Project PRIDE」というプロジェクトを立ち上げ、コンサルティング業界の中でも真っ先に職場環境や組織風土の改善を行ってきた。
同社が組織風土改革に取り組んだ背景には、近年増しているDX(デジタルトランスフォーメーション)ニーズへの対応があった。DXを成功させるには、同社の従来からの強みであるITコンサルティングに加え、データサイエンスやUI/UXデザインなど、様々なスキルをもった人材を結集させる必要がある。しかし当時は「ハードワークが必要なシーンもあり、あらゆる人が働きやすい環境とは言えなかった」と田中さん。Project PRIDE発足時、アクセンチュアの経営層は「今後のお客様のニーズに応えるために、多様な人材が活躍できる組織に作り直さなければならない」と危機感を抱いていたという。
そこで同社はこの改革を「経営上の最優先課題」と位置付け、残業時間や有給取得率のモニタリングと改善、テクノロジー導入による業務効率化と職場環境の整備を進めてきた。それらの取り組みが功を奏し、同社の働く環境は大きく改善。人材の定着率も向上し、現在は日本の大手優良企業と肩を並べるほどの数値となっている。
またアクセンチュアは、日本の地方とも関わりの深い企業だ。特に東北地域における同社の活動の象徴として、東日本大震災発生を契機に開設された「アクセンチュア・イノベーションセンター福島」がある。同所を開設した2011年から、先端デジタル技術を駆使した震災復興支援を実施。現在は会津若松地域から全国の生産性向上を目指し、自治体や地域のものづくり企業と連携して「地方のスマートシティ化」に取り組んでいる。
同社は日本に長く根付きながら、産業・働き方・地域社会など、様々な領域で変革に取り組み続けてきた会社なのだ。
「企業」と「人材」の両面から地方のデジタル化を推進
アクセンチュアが今回新たに地方へ拠点を開設する背景には、「地方企業への貢献」と「優秀な人材確保」がある。田中さんによると、近年日本では製造業を中心に海外工場の国内回帰が進んでいるとのこと。「地域拠点の立ち上げをきっかけに、アクセンチュアが持つナレッジやデジタル技術を活かしながら、地域企業と膝詰めで新しい価値を共創できれば嬉しい」と想いを語る。
また同社では、地方で活躍するデジタル人材の育成にも意欲的だ。今後労働人口が減少する中で、地方の中小企業が存続し続けるには、少人数でも高い生産性を維持するためのデジタル化が必須だ。そのデジタル化を担う人材の育成は、日本社会全体で取り組むべき喫緊の課題と言えるだろう。
様々な企業のデジタル化支援を行うアクセンチュアでは、お客様のリアルな課題と向き合って試行錯誤する機会が数多くある。地に足のついたデジタル戦略を策定し、実行するスキルを身につけるにはうってつけの環境だ。田中さんは「現状、デジタル人材は首都圏に集中しがち。地方でデジタル人材を育成する場を提供し、人材と企業支援の両面から地方を盛り上げたい」と話してくれた。
今回新設されるのは仙台市、前橋市、名古屋市、福岡市の4拠点。各拠点にはアクセンチュアのビジネスを加速させるナレッジを集積させ、異なる強みを持つ場を作る予定だ。それぞれの拠点では、下記のコンセプトを主軸に拠点を展開するという。
● 仙台:データ活用を担う拠点
● 前橋:デジタル化に必須なITインフラ導入の支援拠点
● 名古屋:製造業のDX支援の拠点
● 福岡:“人とマシンの協働”を実践、省人化を徹底したサービスの創出・提供拠点
アクセンチュアの拠点が日本各地に誕生することで、地方企業のデジタル化が進むとともに、地方で働くデジタル人材も増えていくだろう。同社が取り組む「地方のデジタル化」への期待は、今後さらに高まりそうだ。
地域の特色や強みを活かしながら発展に貢献
次に、今回新設される仙台/前橋拠点の今後の展望について聞いた。東北一の経済基盤を持つ都市でありながら、約1時間半で東京へアクセスできる仙台市は、首都圏との連携が非常にとりやすいという。また「学都仙台」という名の通り、仙台は優秀な若い学生が集まる地域でもある。東北大学をはじめとしてテクノロジーやデータサイエンスの素養を持つ理系人材が豊富にいる一方、就職をきっかけに仙台を離れてしまう人も少なくない。
そのような中で「仙台にアクセンチュアの拠点があることは、東北で住み、働く選択肢を増やすことにもつながるはず」と田中さん。「仙台拠点と福島拠点、それぞれが持つ技術を活かしながら、東北地域に貢献したい」と意欲を語った。
また2023年5月には、アクセンチュアの前橋市拠点が群馬県庁の30階に開設された。もともと群馬県は、教育分野や産業分野におけるICT活用に積極的な地域。同社では群馬県の高校生向けに、STEM人材(「Science/科学」「Technology/技術」「Engineering/工学」「Mathematics/数学」などの自然科学の知識をもとに科学技術の発展に貢献する人材)を育成する講座を行うなど、自治体とのつながりも深い。
そんな群馬県に拠点を立ち上げたアクセンチュアは、今後もこの地域を盛り上げてくれることだろう。前橋拠点の今後については「具体的なアクションはまだ決まっていない」と前置きした上で「今後も自治体や地域企業との連携を図りながら、群馬をテクノロジーの力でどう貢献できるか模索したい」と話してくれた。
アクセンチュア拠点戦略統括が語る地域への思い
今後地方進出する上で超えるべきハードルを聞くと、「外資系のコンサル会社というイメージをどれだけ脱却できるか」と回答が返ってきた。地方ではまだまだアクセンチュアという会社を知らない人も多く、「『外資コンサル』という言葉が持つドライなイメージが先行して、身構えられてしまうこともある」らしい。今回新たに開設された拠点は、地元企業の人と対話を重ね、信頼関係を構築する際の足がかりとなってくれるだろう。
また田中さんは群馬県出身で、学生時代には仙台に住んだこともあるという。地方で生まれ育ったバックグラウンドがあるからこそ、「地方出身の人が首都圏に出ていってしまい、地域の活気が無くなってしまうのは寂しいと感じる」と田中さん。「だからこそ自治体や企業、そこに住む人も巻き込みながら、その地域のエコシステムを良くすることに貢献したい」と話してくれた。
テクノロジーを活用した地域貢献を目指して、今後もさらなる組織の拡大が見込まれる同社。また近年力を入れてきた働き方改革が身を結び、多様な人材が活躍できる環境が整っている。「慣れ親しんだ地域で働きたい」「テクノロジーで地域を発展させたい」という人は、ぜひアクセンチュアの門を叩いてみてはいかがだろうか。
【企業プロフィール】
会社名:アクセンチュア株式会社(Accenture Japan Ltd)
本社:東京都港区赤坂1-8-1 赤坂インターシティAIR
アクセンチュア・アドバンスト・テクノロジーセンター仙台:宮城県仙台市青葉区花京院1-2-15 ソララプラザ 3階
アクセンチュア・アドバンスト・テクノロジーセンター前橋:群馬県前橋市大手町1-1-1 群馬県庁舎 30階
事業内容:「ストラテジー & コンサルティング」「 テクノロジー」「オペレーションズ」「インダストリーX」「アクセンチュア ソング」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供
HP:https://www.accenture.com/jp-ja
【編集部後記】
同社の取り組みで一番印象に残ったのが、アクセンチュア・イノベーションセンター福島における震災復興支援の取り組みです。支援プロジェクトの中核を担ったのは「CMEs(Connected Manufacturing Enterprises)」という、中小の製造業向け業務システム。中小企業にも導入しやすい価格帯でありながら、在庫管理や生産管理といった基幹業務を効率化できるといいます。「地域を被災前の状態に戻す」ことに留まらず、「地域全体の生産性向上」を目指す同社は、広い視野を持って本質的な支援を行ってくれる会社なのだなと思いました。そんなアクセンチュアが新たに地方に拠点を増やすことで、さらなる地域の雇用創出や経済の活性化につながればと思います。(ライター:鈴木智華)