【イノベーター】「群馬県を映像県へ」クリエイターが輝ける未来を目指し奔走する 8hammer株式会社 代表取締役 土井一樹さん

 今回インタビューに応じてくれたのは、群馬県を拠点に動画制作やライブ配信事業を行っている8hammer株式会社 代表取締役 土井一樹さん。都内のデザイン会社や映像制作会社の勤務を経て、クリエイターの置かれている環境を改善したいという思いで独立、2017年に8hammer株式会社を立ち上げました。現在は映像制作事業を行いながら、地元群馬県でクリエイターが集まり、繋がりを作れるコミュニティを運営しています。今回は土井さんに、創業のきっかけや事業内容、将来のビジョンについてお話を伺いました。

8hammer株式会社 代表取締役 土井一樹さん

原動力は「ワクワク」 企業の映像活用を内外からサポート

―現在の仕事内容を教えてください

 映像制作会社「8hammer」の代表取締役として、主に群馬県内の企業に対して動画制作やライブ配信のサポートを行っています。企業のプロモーションビデオや採用活動のための動画、YouTubeの動画やSNS用のクリエイティブを制作することが多いです。首都圏と比較して、群馬県内企業はデジタルコンテンツ活用が進んでいません。そんな状況の中、より多くの企業に映像の可能性を知ってもらいたいという思いで、映像コンテンツの提案・制作サポートをしています。

映像の可能性を広める活動の一環として、クリエイターを目指している人や企業内のIT担当者向けのセミナーやスクールも展開。ソフトとハードの両面から映像制作のサポート体制を構築しています。

普段は群馬県庁の32階にある「NETSUGEN(ネツゲン:群馬県が主導する事業として2020年に誕生した、官民共創の複合コワーキングスペース)」で仕事をしています。NETSUGENができた当初に「面白そうでワクワクする!」と思って飛びついたので、NETSUGENの利用会員の中では一番の古株企業なんです。それゆえに県や市との結びつきも強く、NETSUGENが主催するセミナーやライブ配信のお手伝いをしたり、コワーキングスペースの中にあるデジタルサイネージ広告を管理したりしています。

さらに、NETSUGENのスペースをお借りしてYouTube相談窓口を開設。「YouTubeを始めてみたいけれど何から始めればいいか分からない」「自分でYouTube動画を作れるようになりたい」という人や企業向けに、無料で相談を受け付けています。動画を少しでも身近に感じてもらいたい、相談できる場所を提供して良質な情報に触れてもらいたいという思いで開設しました。非公式で始めたつもりがいつの間にか大好評で、自分でもびっくりですよ。

―8hammer株式会社を創業したきっかけは何ですか

 漫画家になることが子どもの頃からの夢で、専門学校を卒業した後も漫画家を目指して活動しようと思っていました。しかし、安定した仕事についてほしい両親は猛反対。話し合いを重ねた結果、折衷案として好きなことの一つである「ゲーム」を制作する仕事に就くことに決めて、就職活動を始めました。

しかし当時、世間は就職氷河期の真っ只中。なかなかゲーム会社から内定をもらうことは難しく、ゲームクリエイターの道はいったん諦めて都内の小さなデザイン会社に就職しました。

入社当初はDTPという紙媒体のデザインがメインの仕事でしたが、日本社会に「IT化」の波が押し寄せるとともに、Web制作や映像制作の仕事が増えました。紙媒体のデザインとWebデザインでは、まったく違うスキルが求められるため、未知の領域が多く大苦戦しました。その上、上司や先輩もWebや映像制作の経験がほとんど無かったのです。まわりに聞けるような環境ではなく、納品した仕事に確信が持てなかった時代がありました。

不安感を持ちながらも仕事をこなしていましたが「今やっている仕事の正解を知りたい」と思い、映像制作会社にアプリデザイナーとして転職。本格的にITの世界に飛び込みました。

その後個人事業主として独立。「結婚して子どもができたら、生まれ育った群馬で子育てをしたい」という思いもあり、ウエディング映像制作のディレクターをしていた妻とともに地元群馬県に戻りました。独立した当初はWebデザインやSNS運営などを引き受けていましたが、高崎市が運営するYouTubeチャンネル「農Tube高崎」の動画制作の依頼が来たことをきっかけに、地域と映像の可能性を感じるように。そこで、夫婦で関わってきた「映像」を事業の柱にすることを決め、夫婦で会社を設立しました。

映像の「価値観」を知ってもらうことで、クリエイターの地位向上を目指す

―群馬県内の企業と映像の関わりについて、どんな課題がありますか

 群馬県内の企業には映像制作に関する「価値観」が存在していないことが大きな課題です。どんな場面で映像を使うと効果的なのか、どんな流れで作るのか、相場はいくらなのか。そもそも「映像って必要なの?」という部分から、あまり知られていないのが現状です。

映像のことを知ってもらうためには、映像コンテンツに触れて、実際に使ってもらうことが一番最初のステップ。しかし、一般的な映像制作の見積もりやスケジュールをお出しすると「時間やコストがかかりすぎる」という声が多くありました。

そこで「8hammer」ではより多くの企業に映像コンテンツを使ってもらえるように、納期の速さと低コストをウリにした映像制作サービスを展開しています。間口を広げてたくさんの企業に映像を使ってもらい、「価値」を身近に感じてもらう。そこから次のステップへとつなげられるような土台作りができればと思っています。

さらに現場で話を聞くと「パソコンや機械いじりが得意だから」という理由で、本来の職務と並行して社内SNSの運営や映像制作を任せられている社員さんもいることが分かってきました。そういった人たちの多くはかつての僕のように、SNSや映像の知識を持つ人が周りにいません。「これで合っているのかな?」と不安に駆られながら仕事をしています。また「本来の職務ではない」という理由で評価もされにくく、給与に反映されないためモチベーションが下がってしまっているという課題が浮かび上がってきました。

当社では「映像やクリエイターに対する価値観が存在しない」という課題を解決するために、3つの取り組みを行っています。

1つ目は「映像制作に関する価値観の周知」です。外注した場合の金額や時間の相場観を知ってもらうことで、映像制作の価値を知ってもらい、クリエイターの社会的地位を明確にすることが目的です。

2つ目は「本職ではないクリエイターの給与体系を作るお手伝い」です。明確な評価方法である「給与」を整備することで、本職ではない企業内クリエイターのモチベーションを保つ環境づくりを推進しています。

3つ目は「周りに相談できる環境を提供すること」です。NETSUGENにYouTube相談窓口を設置したり、自社でセミナーやワークショップを開催してクリエイターの集まる空間を作ったりすることで、クリエイターの孤独感解消やスキルアップにつなげています。継続することで、映像制作やクリエイターの仕事に対する価値が定着してほしいという思いで取り組んでいます。

「NETSUGEN」を中心にクリエイター向けのセミナーやワークショップを開催(動画:「tsulunos 〜群馬県公式〜」チャンネルより引用)

―仕事をする上でどのようなことを大切にしていますか

 自分の原体験で「困ったな」「いやだな」と思ったことを解決することです。周りに相談できる人がいなかったり、自分のやり方が正解なのかもわからずお客様に納品したり。そんな思いは他のクリエイターにはしてほしくないと思っています。8hammerでワークショップやセミナーを開催するのは、クリエイター同士が繋がって、仕事の取り組み方やテクニックを相談できるような関係性を作ってほしいという意図があります。群馬県にはそういったクリエイターのためのコミュニティがあまり無いので、集まれる場を提供してどんどん繋がりを広めていきたいですね。また、優秀なクリエイターが集まることで、より面白い発想が生まれるのではないかと期待しています。

僕自身も面白いことが大好きなので、そういった「面白そう」というワクワクを原動力に仕事をしていますね。

縁の下の力持ちとして、群馬県の映像制作を産業へ

―今後、群馬県と共同で行う予定の映像分野での取り組みを教えてください

 山本一太県知事の後押しもあり、群馬県は今、官民を巻き込んだ映像制作に非常に意欲的です。その取り組みの一つとして、なんとハリウッド映画の制作を計画しています。

従来の映画は配給会社を通さないと上映できませんでしたが、今は動画配信サービスでオリジナルの映画を配信できる時代。それを群馬県主体で行おうという思い切った企画です。それを実現するためには、映画が撮影できる施設施設や機材、制作ができる人材をもっと増やす必要があります。僕たちはそのサポーター役として、それらの映画制作の基盤を作っています。「群馬県の産業といえば映像制作」と言ってもらえるように、映像制作産業を育てるための土を耕している段階です。

やるべきことはたくさんありますが、いつか完成した映画のエンドロールに「8hammer」の名前が載ることを夢見て、県と協力しながら地道に取り組んでいます。

―会社として取り組みたいことはありますか

 今後も映像制作の「価値観」を広める取り組みを続けたいですね。NETSUGENと関わっていると、クリエイティブ関係のイベントやセミナーを開催する企業が増えていると実感します。そこで「8hammer」としてもセミナー動画制作やライブ配信のをサポートをしたり、撮影機材を提供したりすることによって、「映像ってこんなことにも使えるんだ」「映像って面白いな」という価値観をどんどん広めたいと思っています。

また先日、「映像を制作したい」「社会で通用するスキルを身に着けたい」という人を発掘し、映像制作のスキルを身につけてもらった上で就職サポートをする事業も始めました。「何かを実現したいけれど、成長の機会やきっかけになかなか出会えていない」人たちのスキルを引き上げることで、群馬県のクリエイターの地位向上に繋がることを期待しています。これからも縁の下の力持ち存在として、群馬県の企業とクリエイターを支えていきたいです。

(プロフィール)
8hammer株式会社
代表取締役 土井一樹
・群馬県生まれ
・夢は漫画家だったが両親との話し合いの末、都内のデザイン会社に就職
・中小企業庁認定のIT専門家として企業のIT化をサポート
・群馬で子育てをしたいとの思いから、妻と共に帰郷し個人事業主として独立
・高崎市発注のYouTube動画制作をきっかけに、映像制作をメイン事業に据える
・独立から1年後の2017年に法人化、夫婦共同代表で事業スタート

●8hammer株式会社ホームページはこちら
https://8hammer.com/

【編集部後記】
私自身も、群馬県内でライターとして働く中で、群馬県は都心と比べてクリエイティブな仕事が少ないと実感していました。特に映像分野においては「価値観」も存在していないというお話を聞き、このままだと日本の中ですら置いて行かれてしまうのではないかと危機感を感じました。映像制作産業普及のための土井さんのコツコツとした土台作りによって、群馬県が映像県として日本にとどまらず、世界から注目される地域になってほしいという期待が高まります。(ライター:坂本史織)

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